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言い方の妙

怪談に出てくる物や場所の名前、登場人物のセリフまわしや繰り返される重要なフレーズ、それに擬音などは、演出過剰だと嘘臭くなるし、ミニマルすぎても聞き手の想像力が働かないから、多少の寄り道は必要で、センスが問われる重要なポイントだと思う。

そんなことを考えながら思い出した、名前やフレーズが印象的だった話を2つ紹介したい。


たぶん、夜中に笛を吹くと蛇が出るという話は、調子にのって騒いでる子供らを大人しくさせる方便として、昔から使われてると思うのだが、
自分が幼い頃は、高知にある五丁目の家(祖母宅)で夜ふかししてると
「じょうりゅうのねこ」が来るぞ
とよくおどかされた。

じょうりゅうは上流で、近所を流れる鏡川を指すのだと思う。
祖母の家の辺りが中流域にあたり、上流までは家からバスで小一時間かかる。小学校のときに何度か泳ぎに行った。
ねこについては、先祖の侍が戯れに猫を斬り殺して祟られたとかいう因縁めいた話が伝わっていて、なにしろ大昔のことだから今の家族の間では、すでにもう猫を畏れるような空気ではなかったが、子供を怖がらせるネタに使うくらいだから、すこしは尾を引いてるんじゃないかと思う。



祖母の姉がよく聞かせてくれた話に、
祖母がまだ結婚する前、おそらく20代の頃
「がんきりばし」のところで「シチニンミサキ」にとりつかれて大変だった
というのがあった。
細かい部分は覚えてないが、家に戻るやいなや寝込んでしまい、自分は何処其処の何某であると素性を語ったり、昔の恨みつらみを含んだうわ言を繰り返すばかり。
方々に手を尽くしてみたがどうにもならず、最後は「おたゆうさん」を呼んで祓ってもらったらしい。

がんきりばし(雁切橋)は、前述の鏡川の中流域にかけられた橋で、今では別の名前が付けられているが、刑場跡として知られるいわくつきの場所だ。
子供心に濁音を含んだ強烈な語感が何ともおそろしげに聞こえた。



シチニンミサキとは、四国に伝わる七人同行という怪異の類型で、田中貢太郎のこの話が詳しい。
妖怪図鑑で言うと、餓鬼憑きとかひだる神みたいもので、とりつかれると急に空腹に襲われて行き倒れになってしまうそうだ。
逃れる方法は基本的に何か食べ物を一口食べることだが地方によって多少異なる。
おたゆうさんは、いざなぎ流と呼ばれる陰陽道の神職の呼び名らしいが、とくに何も聞いてないので詳細はわからない。

枯れ尾花

10年くらい前、
高校の水泳部の先輩と車でおよそ1週間かけて札幌から知床まで湧水地を巡りながら往復した。
途中の観光やグルメ情報は全て無視して川釣りとキャンプ三昧の日々だった。

お互い釣りに目覚めたばかりで意気は高いが、
都心に住んでいると終日ねばっても釣果がしぶいことが多いから相当うっぷんが溜まっていたのだと思う。

いざ旅行の初日、
一足先に現地入りして何度かテントを張って野営していた先輩が、
今まであったこと、支笏湖の方に穴場をみつけたとか、思ってたより携帯コンロの燃料の消耗が早いだとか、色々話してくれた中で、
「夜中にテントのカバーをはためかせる風が、人がつかんで揺らしてるかのようで不気味だ。」
と言っていた。

この旅行のために以前から綿密な打ち合わせをかさね、
キャンプ道具は神保町のさかいやで大体同じものを揃えた。
テントは型落ちしたシェラデザインのやつが、とても軽いし組み立ても簡単で、処分価格1万円というのが決め手となり、2人ともそれを買ったのだった。



その晩、
はじめてテントを張って、明日にそなえて早めに寝ようとしていたら、
急にバババッと激しくテントをゆすられた。
さっきの話を受けて先輩がおどかしに来たんじゃないかと思うくらい、
ほんとうに誰かが悪戯で揺らしてるようなリズムだった。

外に出てタバコを吸いながら様子を見ていると、
やっぱり風に煽られてるだけらしく、ふだん建物で暮らしていると風雨の影響ほとんど感じないけど、
そうか、今日は薄手のテントだもんな、と妙に納得した。


話は変わって、まだ自分が高円寺に住んでいた頃、
夜遅くに青梅街道の東中野と中野坂上の間を歩いていたら、
道の反対側で白いコンビニ袋がスーーッと垂直に舞い上がって、
みるみるうちにビルの屋上くらいの高さまで昇り、
そのまま上空をフワフワ漂っている様子をしばらく眺めていたことがあった。


ついこの間は、世田谷の羽根木公園で、
林の中を抜ける階段を下りていたら、
両脇の草むらの中で、べつにめずらしくもない雑草の、
針系の葉の先端部分だけが風をうけて踊るようにクルクルまわっているのをはじめて見て、
こんなふうになるとは知らなかったので、結構おどろいた。



子供のときは誰しも知らないことが沢山あって、不思議に感じた出来事も多かったと思う。
その当時は解釈のしかたも子供であるがゆえに自由だったから面白いエピソードがうまれやすかった。

お化けや幽霊が登場する不思議な話にしても自分は、
誰かのオリジナリティあふれる解釈の部分を面白がってるのかもしれない。

大人になった今では、何がおこっても分別みたいなもので処理しているから見落としがちだけど、ちょっと気分を変えてじっくり物事を眺めてみると、意外な新事実に気づくことがある。
ときには自分の好きな考え方を発展させて、こうだったら面白いのにっていうアイデアを思いつくことも。

場をわきまえずに素朴な感想を口にしたり浮世離れした話ばかりすると迷惑がられるだろうけど、面白さや盛り上がるかどうかで計れない貴重な話はあるし、どう解釈しようが自由な部分は残しておかないと息がつまってしまう。
そういうものを許容してくれる場所は常に確保しておきたいと思っている。

風にまつわる話ばかりだと書いてる途中で気づいたが、とくに狙ったわけじゃなく、たまたまそうなりました。

怪談マンガこぼれ話2

怪談マンガ 第2話「オバケ」について

叔母からは多大な影響を受けている。
知り合いから仕入れてきた怖い話をよく話してくれたし、
祖母の家には叔母が買い集めた怪奇小説やホラー漫画が沢山あって、
夏休みや正月に帰ると本棚から何冊も抱えてきて読みふけったものである。
大人になってからも、趣味に合った怖い話の本を見つけたら貸し借りをするような関係が続いている。



この第2話について、むかし叔母から聞いていたのは、
「子供の頃、小さい枕のお化けを見た。 そのときは怖くて誰にも言えなかった。」
程度の話だった。

最近メールで教えてもらった細かい部分はマンガに描いた通り、5才くらいのとき、母親に連れられて洋裁の先生のところに行って、その家の裏の舗装されてない道に沢山ゴミが捨てられており、その中に枕お化けがいたのだそうだ。

お化けの姿かたちは実際どんなだったか詳しく聞いたら
「マザーグースの詩に出てくるハンプティダンプティ、たまごに描いた顔みたいな感じ。」
と言っていた。
別のときに、水木しげるの化け草履の絵を見て
「実感でてる、こんな風だった。」
とも言っていたから、簡単なつくりだけど密度の濃い印象だったんだろうな、と想像する。

なぜだか自分は、夕暮れ時、古民家の縁側に、目の玉がカラカラ動くちゃちな作りのぬいぐるみのような枕のお化けがちょこんと腰掛けている場面をずっと思い浮かべてきた。
原風景と創作物がごっちゃになって、あたかも自分が目撃したかのように、古い記憶の一部と化している。




怪談マンガこぼれ話4

怪談マンガ 第4話「蓼科生活」について


マンガに出てくる先輩2人からこの話を初めて聞いたのは、まだお互い高校生の頃で、部活前後の空き時間だったと思う。

林間学校で蓼科に行ったとき、寮からキャンプファイヤーの広場までの真っ暗な道を歩いているとき、人魂のようなものに追いかけられたのだと言う。

そのとき薄暗い部室で頭に思い浮かべたのは、山道の脇に広がる笹やぶの上を、青白い人の頭が2つ、ふつうの人の背丈より高い位置で飛んでいく様子だった。
 
「あのときさー、お化け見たよな!」
「あー、見た、見た。ホントに。」

このくらい乱暴な語り口で、周りにいた連中もとくに興味があるわけではないから、それで終わった。

今でもたまに一緒に釣りに行ったりするY先輩の方は僕と同じくらい怖い話が好きだが、彼もあえて話を盛るようなタイプでは無いし、そういうことに関心が薄いN先輩まで「本当に見たよ」と言い切ってたところが真実味あって良かった。



あれから10年以上経ち、今回マンガを描くにあたってもう一度メールで詳しく教えてもらったところ、かなり記憶と食い違う点があった。

・広場に戻る途中、正面から来る懐中電灯の明かりが見えたので、
 隠れて脅かしてやろうとした。

・一本道で脇道も無いはずだが、いやに来るのが遅いし、
 いつの間にか明かりも見失ってしまう。

・ふと振り返ると、すぐ目の前に怪しい気配が。
 フラッシュの残像のような、モヤモヤで捉えどころのない感じ。

・2人とも一目散で逃げ出したので、後ろのものがどうなってたかは不明。



お化けの姿が抽象的なイメージなので怖い雰囲気を出すのは難しそうだと思ったが自由にデザインを考えることができて楽しかった。

日本古来の妖怪から離れて、怪物っぽい感じを出してみようと思い、自分なりに描き方を工夫してみた。

ロマンシングサガに出てくるモンスターのドット絵の、どうなってるかよくわからない部分があるところが好きで、ときどき参考に眺めたりするのだけど、中でもマッドゴーレムが描きたいイメージに近いなと思った。

当初はネットに上げるつもりで、なんとなく均等にコマ割りしてしまい、描画に関しても印刷を考慮しておらず、土壇場になって再編集するのが大変だった。

今後はできるだけ計画的にやっていきたい。

怪談マンガこぼれ話3

怪談マンガ 第3話「下がり」について


母方の祖母は旅行先でお化けを見てしまうことが多かったので、よく怖い話を聞かせてくれた。
この話の舞台は、上高地だったか奥入瀬か、自分は行ったことない有名な観光地で、静かで落ち着ける場所をイメージさせる響きだったが、忘れてしまった。


とくに印象に残っているのは、宿泊先のエレベーターについてのくだり、
同乗しているボーイさんがつるべのように下がった鎖をジャラジャラさせて動かす古めかしい作りだったそうで、とても気持ちが悪かったと言っていたこと。
恐ろしげな擬音や謎めいたフレーズは怪談につきものですね。
この、鎖でジャラジャラとは一体どういう仕組みなのか、マンガを描くときに随分調べてみたが、入り口の金網を手動で開け閉めするタイプばかりで、他にそれらしいものは見つからなかった。


祖母の話に限らず昔から旅にまつわる怪談は多い。
普段より気が高ぶっているから妙なものまで感知してしまうのだろうか。
一人旅だと勘違いも含めて実体験にしてしまう可能性もある。
また、土産話というかたちで人に話しやすいことも、数多く残される理由のひとつに違いない。


大抵の人は観光などを楽しみに旅に出る、
だから基本的に、まさかお化けが出るとは思ってないわけで、途中までは普通の旅行記だ。
そして、お化けが出てきたら、無用なトラブルは回避しようと行動する、面白いオチがつくまで怪しげなものと付き合うのは危ないし、面白さより身の安全を選ぶのは当然だ。
でも、むしろそっちの方がリアリティがあっていいと思う。

自分が描いたマンガも、出オチというか、幽霊を見た後どうなったかバッサリ省いてしまったが、続きは「怖くて、怖くて、布団にもぐって一晩中震えていた」とか、「震えているうちに眠ってしまったようで、気が付いたら朝だった」とか、ありきたりな流れだった気がする。

祖母は他にも色々話してくれたので、また本を作るときに描いてみたいと思う。



最後に、マンガに描いた幽霊と似たような感じの絵をいくつか紹介したい。

高いところから寝床を覗き込む女の幽霊というと、
屏風のぞき、高女(たかおんな)、などを連想する。

また、妖怪では天井下がりというやつがいて、
いずれも有名な妖怪絵師の鳥山石燕の作品に登場する。

長い髪や着物は絵になるので演出の都合もあってか女の姿であることが多いようだ。

男は小幡小平次の霊くらいしか思いつかない。
こちらは葛飾北斎が描いた蚊帳を覗きこむどくろの画が人気。

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